September 2021 @ THE DOME AT AMERICA’S CENTER , St. Louis, MO –
チャーリー・ワッツが死去して1ヶ月が経ち、まだまだ現実を受け入れられない中、ノーフィルター全米ツアーが始まりました!
元々昨年2020年夏にスケジュールされていた北米ツアーがコロナによって一年延期。残念ながら一部公演がキャンセルとなり、そのひとつがボクがチケットをおさえていたバンクーバー公演でした。カナダは未だもって入出国が不自由な状況なので、致し方なく素直に払い戻しを受け入れたわけですが、ストーンズをまったく見に行かないわけにもいかず、白羽の矢が立ったのがネバダ州ラスベガス公演とツアー初日のミズーリ州セントルイス公演です。
スティーブ・ジョーダンがドラムの代役をあくまでも「一時的に」務めるはずだったのに、アナウンスから数週間後にまさかのチャーリー・ワッツ死去のニュースが世界中を駆け巡りました。
公演キャンセルの埋め合わせと、チャーリー逝去後初でありスティーブがドラムの椅子に座る初めての公演ということで、ツアー初日のセントルイス行きを決めました。
しかし正式に決めたのはライブ1週間前。入場券を販売しているチケットマスターのサイトを見ると、なにせチケットが売れていない。これはStubHubで安く出回るかも・・と期待してしばらく静観しておりました。
でもボクの希望しているキース前ピットエリアの価格は落ちず、チケットマスターのサイトでもいよいよ残りわずかになってきたため、定価で購入しました。結局ライブ当日になってもチケットはかなり売れ残ったようです。
と、ちょっと寂しいことを書きましたけど、セントルイスって僕の住むシアトルから車や電車でサクっと行ける場所ではないんですよ。東京ー上海ぐらい遠いですw 飛行機で片道4時間の苦行に耐え、ダウンタウン行きの電車で軽く乗り物酔いし、最寄駅からとてもアクセスの良いホテルにチェックインしていざ会場に向かいます。
ミズーリ州及びセントルイスって初めてなんですが、なかなか綺麗な街ですね。いろんなアメリカの都市や田舎に行きましたけど、夜中に歩いても危険な香りはしませんでした。ライブハウスなどない限り基本的に旅行でダウンタウンには行かないのでシアトルとしか比較できないですし、ボクがラッキーだっただけかもしれませんが。
MLBセントルイスカージナルスの本拠地ブッシュスタジアムの横を電車で通過し会場最寄駅に到着すると、当然のことながら周りはストーンズファン一色。
やばい。テンション上がる!
セントルイスダウンタウンに位置する会場の「ザ・ドーム・オブ・アメリカズ・センター」は全天候型スタジアムで普段アメフトの試合などに使われているようです。これまで個人的にアメリカではテキサス(’97)、シカゴ(’02)、シアトル(’19)のスタジアム公演は全てオープンエアーだったのでインドアは逆に新鮮。さいたまスーパーアリーナをさらにバカデカくした感じ。
前座開始時間に合わせて到着したのでセキュリティゲートの混雑を心配しましたが、数分も並ばずスムーズに入場できました。
リストバンドを腕に巻いてもらい、フロアに降り立って、PIT-2というキース寄り、すなわち向かって右側のエリアに向かいます。ストーンズのステージを目の前にしながらそのステージ方向に歩いていくのはワクワクします。ほんと、「ワクワク」だなんて、ボキャブラリー不足ですみません。
全席指定の場内ですが、当然のことながらピットエリアに椅子は並んでいません。オールスタンディングです。ステージ前の柵から縦15mぐらいがそのスぺースに該当するでしょうか。フジロックの通称「カゴ」エリアに相当します。通常モッシュ、クラウドサーフの激しいエリアですけど、ストーンズでそれが起きてもボクはちゃんと受け止めますよ。でもピットエリアは仮にソールドアウトだとしても常にかなりの余裕があります。
これはアメリカでの七不思議なのですが、ピット後方の指定席のほうがチケットの値段が高かったりするんです。座り心地のいいと言えないプラスチックの椅子がギチギチに並んでいて、かつステージからも遠いのに、なんで値段が高いのか、ボクにはまったく理解できません。
客層は当然シルバーです。でもZZトップほどじゃないかな。白髪の混じったボクの年代よりも下の人たちもかなりいるなあ。人種的には当然白人中心です。ここは特にアジア系が少ないですね。いまここでアジアヘイトの暴動が起きたらボクひとりで1,000人に襲われる自信があります。そのぐらいボクの住むシアトルや西海岸に比べるとアジア系の人を見かけませんでした。
というか、こんなに書いてまだライブ、というか前座すら始まってないw
ザ・リバイバリスツのオープニングアクトっぷりは別エントリーをご覧頂くとして、前座が終わると四つある大型スクリーンはすべて黄色背景のストーンズベロマークで埋め尽くされました。みんなここで記念撮影を始めます。でもプロジェクションとステージセットはコロナ前の公演とほぼ一緒ですね。
「ドラム後ろの扉が空いて人の出入りが始まったよ!」と近くの人が言っていて、前座からまだ30分しか経ってないのにストーンズのライブが始まるわけないじゃん!と頭の中でリアクションしていたら、スタジアム内の灯が消えた!
いつもならここから長い導入SEが始まるところですが、暗転してすぐに故チャーリー・ワッツ在りし日の編集映像に切り替わりました。BGMはチャーリーのドラムビート。
で何か更なる仕掛けがあるのかな、と見ていたら唐突に「レディース アンド ジェントルメン! ザ・ローリング・ストーンズ!」との声がして、4フレットカポのテレキャスターをぶら下げて目の前に出てきたキース・リチャーズが「ストリート・ファイティング・マン」のイントロを弾き出した・・・。
シンプルにしてこれ以上胸に刺さる演出もありません。
スマホのカメラを構えながら、頭の中は真っ白。
ドラムのスティーブ・ジョーダンは、輪郭はチャーリーのコピーなんだけど、ライブバージョンの複製というより、ハイハットやタムの使い方がスタジオバージョンに近い感じ。自分なりに色んなエッセンスを汲み取って構成した結果こうなったんだろうなあと感じました。
・・と分析できるようになったのもライブ後半に入ってからw そしてiPhoneで撮った動画をホテルで見返してからw 序盤はもうチャーリーの不在と、それでも前に進もうとするメンバーの意志の強さばかりを強く感じて涙・涙・涙。よく涙が出てないのに「泣いたー」とかいう人もいますしボクもたまに大袈裟に言うんですけど、今日のこの場面ではほんとに涙が出て止まらなかった。
2曲目の「イッツ・オンリー・ロックンロール」でさらに涙腺大崩壊。「I know it’s only rock n’ roll but I like it」という使い古されたフレーズをミックと一緒に歌うと泣ける泣ける。しまいには嗚咽が込み上げてきて、まともに顔を上げていられなくなりました。
チャーリーの訃報を聞いた時には感傷的にならなかったのに、ミックの声とキースのギターを聞いた瞬間、その後ろにチャーリー・ワッツはもういないんだ、と自分の目と耳で強く意識した瞬間、もうダメでしたね。オンリー・ロックンロールの後半は下を向いて泣いていました。
こんなに泣いたのは、ほんと、小学生のとき以来とかじゃないかな。自分でもびっくりしました。
ミックが「ツアー最初のショーだよ」と言うと、「ダイスを転がせ」のイントロをチラッと弾きかけたキース。ミックが慌てて制し手招きし、ロン・ウッドも加わりメンバー3人が横に並びました。
ここで「チャーリーのいない初めてのツアーで・・」といったことをミックが話すわけですか、亡くなってから1ヶ月間、沈黙を守ってきたメンバーの口からやっとチャーリーに対する思いを聞くことができた、と冷静に受け止められました。ミックの左手の三本指を握っているキースがいじらしくてかっこよくて、この場面に立ち会えたのは、変な言い方ですが幸運でした。
「このツアーをチャーリーに捧げます。これはチャーリー、お前のためだよ!」
と言った後、間髪を入れずに「ダイスを転がせ」のイントロを弾いたキース。
カッコよすぎ。
このあたりから個人的にもやっと冷静に楽しめてきました。
スティーブは自分なりの曲の解釈でドラムを叩いています。チャーリーだったら絶対にこのバスドラのパターンはないな、とか、フィルインはもっとバタバタしているよな、とか気が付く点は多々あるものの、まぁ普通のドラマーだったらそう叩くよねー、という変に納得する部分も多々あり、特に違和感なくすーっと耳に入ってきます。
そしてキーボードのチャック・リーベルのカウントから「アンダー・マイ・サム」! ライブで初めて聞くことができました。ちょうど向かう飛行機内で「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト」のボーナステイクをヘビロテしていて、やっぱ「アイム・フリー」とのメドレーは最高だよなぁ、と感じ入っていたところだったのでまさに最高のタイミング。かつ「スティル・ライフ」よりも「ゲット・ヤー~」のバージョンにより近い演奏で、マイナーキーの哀愁とロニー&キースのギターアンサンブルをめっちゃ楽しめました。
続くはまたしても60年代から「19回目の神経衰弱(19th Nervous Breakdown)」! うわー、マニアックな曲が来た! 過去のツアーでもそう何度も演奏されてないんじゃないかな。荒々しいギターカッティングで曲を先導したキースはスティーブのドラムセット前から動きません。演奏に集中しています。ボクも集中します。個人的に前半のハイライトは間違いなくこの曲でしたねー。
続いてウェブ投票によるリクエストコーナー。リクエストとはいっても事前に選択肢は決まっていて、「ワイルド・ホース」「アンジー」「ルビー・チューズデイ」「愚か者の涙」の四択。もちろん自分が投票したのはこの中で最もマニアック&レア度の高い「愚か者の涙(Fool to Cry)」。でも結果的に選ばれたのは「ワイルド・ホース」。ストーンズの最高傑作バラードではありますが、ちょっと違う曲も聞きたかったかなー。キースが照れくさそうにコーラスを取る姿は微笑ましいんですが。
なんかキースとスティーブの話ばかりしてますけど、ミックもちゃんと見てますよ。でも、とにかくミックは視界からすぐに消えるw 「無情の世界(You Can’t Always Get What You Want)」もいつの間にかステージからいなくなっていて、気が付くと僕のところから5メートルぐらいしか離れていない中央通路を歩いている。と思うと次の瞬間にはステージサイドの花道を闊歩している、といった具合に、ちょっと他のメンバーに気をやると、今ミックがどこで歌っているのかすぐにわからなくなります。さすがに走り回ることはないけど、78歳の老人なのにとにかくフットワークが軽い。
スティーブがハイハットでリズムを刻み出し、アウト・オブ・コントロールかな?と思ったら昨年2020年に発表された「リビング・イン・ア・ゴーストタウン」でした。チャーリーのバージョンも聞きたかったなぁと一番感じたのはこの曲でしたね。
新曲で若干クールダウンした後、唐突なタイミングの「スタート・ミー・アップ」。ロニーのギターソロが光ってました。スティーブのドラムも悪くないんだけど、ちょっとリズムが単調かもなぁ。チャーリーだったらもっとバリエーション持たせてキースと張り合うのが聞きどころなんだけど、と感じるところもあったんですが、淡々としているのもこれまた一興で、ディスコビートにギターリフが乗る感じはとても現代的だなぁとも思いました。
ステージ前通路まで出てきて目の前でキースがギターを弾いてくれたのは感動したなぁ。顔も笑顔だったしね。全体通してキースはご機嫌の様子でした。テレビカメラが入っていないときは控えめのステージアクションも(78歳という歳の割には)全開に近かったのではないでしょうか。
ミックもセントルイスローカルネタでオーディエンスから喝さいを受けたり逆にブーイングをもらったりしてました。ボクはセントルイスに詳しくないので何が面白いのか面白くないのかさっぱりでしたけど。
「ホンキー・トンク・ウィメン」に続くメンバー紹介では「ローリングストーンズファミリーの一員」と紹介を受けていたスティーブ・ジョーダン。個人的にはエリック・クラプトンのバックで武道館で観たのが最初で最後。キース・リチャーズ・エクスペンシブ・ワイノーズの一員としてフジロックのホワイトステージで観るのが長年の夢なんですけどねw
MLBセントルイスカージナルスのユニホームを無理やりミックに羽織らされていたロン・ウッドに続き、最後に紹介を受けたキース・リチャーズ。もちろんアメリカではお約束の歓声半分ブーイング半分です。ロニーがペダルスティールに座ったのでひょっとして、との予想通りキース自ら曲紹介をして「ハッピー」。キーこそBのまま下がっていませんでしたが、キックでシンコペするスティーブのバージョンは、まさにエクスペンシブ・ワイノーズそのものでした。
黒のセミアコースティックギターを持ったのでひょっとして・・・と思ったらやはり「スリッピン・アウェイ」。思わず落胆の声を上げてしまいました(汗)。アルバムバージョンは大好きなんですけどね。ライブではもう飽きました。でも食傷を通り越すといい味が出てくるもんですね。特にロニーのギターが曲を引っ張っていたのは新たな発見でした。というかライブを通してロニーのギター音がこれまでになくラウドに聞こえました。
後半のハイライトは文句なく「ミス・ユー」と「ミッドナイト・ランブラー」! よくもこの長い歌を2曲続けてやるもんだと感心しましたよ。やらなければあと3~4曲は押し込めるしそれも聞きたい気もしますが、どちらもこれまたロニーのギターが光ってましたね。なんかここ20年ぐらいで一番うまくなってない? キースなんてミス・ユーの序盤はドラム台に座って存在感を消してましたから。
そういえばキースはステージで煙草を吸わなくなりましたね。いつからなのかな。そういえばロニーも咥えているところを見なかったかも。
「ミッドナイト・ランブラー」はこれまたかなり印象が違いました。チャーリーならシャッフルでここに入れないだろうという場所にスティーブはキックをバシバシ入れていました。驚いたのが見せ場となる曲途中のブレークのところの構成も「おや?」と思わせる場面が何度もあって飽きさせません。
でもミッドナイト・ランブラーは魔曲だよねぇ。キースとロニーのギターが超ラウドでワイルドだねぇ。
「ぼくらが初めてセントルイスに来たのは1966年!」と言って始まった「黒くぬれ!(Paint it Black)」。もう面白いぐらいにドラムパターンが違ってました。Aメロはフロアタムのアクセント中心でスネアなし、Bメロでは逆に速いスネアのフィルインからシンバルで色を付けるという、チャーリーのドラムとは似ても似つかない、スティーブのオリジナルフレーズのオンパレードでした。そもそもそんなに思い入れのある曲でもないので、こう来るかぁと感心しながら聞いていました。
おそらく意図しない若干長めのインターバルがあって「ひょっとしてもう終わり?」と首を傾げそうになったころ、聞きなれない打ち込みのドラムビートが鳴り始めました。「悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)」です。僕の知る近年のライブバージョンとかなり違っていたので一瞬戸惑いました。かつチャーリーが両手の16分で刻んでいたハイハットを、スティーブはすべて右手の8分で叩いていました。なので曲の印象がだいぶ異なっていて、個人的にはこっちのほうが好きかもです。無理くりサンバ感を出すよりはシンプルな8ビートのほうがキースの長いソロともマッチしているように感じました。
さあ「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」です。どうしてもスティーブのドラムにばかり意識が行ってしまうのですが、チャーリーがクラッシュシンバルを使ってリズムを構成していたところをなんとフロアタムで、ライドのところをハイハットでそれぞれ刻んでいました。キメのスネア&クラッシュも入れる位置が全然違う・・・。でもこれはこれでアリです。というか実際の現場ではそんなこと気にならなかったです。ボクの撮影したiPhone動画を見て初めて気が付きましたw どちらかというとレコードのオリジナルバージョンに近い淡々としたノリですね。それよりも周りが大盛り上がりして楽しかった記憶しかないです。
というか、オレ、ド素人のくせにドラムのことばかり書き過ぎじゃない!?
とにもかくにも「さんきゅーぐっない!」で一旦締めて、アンコールへ。
「ギミー・シェルター」イントロのアルペジオが聞こえてきたんだけど、キースの姿が見えない・・・。キーボードのマット・クリフォードの陰に隠れてギターを弾いていたのかな。歌に入る直前にステージに出てきました。
バックコーラスを取っていたサーシャ・アレンをミックがステージ中央にエスコートし、ギミーシェルターの重要な女性ソロパートを熱唱させます。というか絶叫させます。ステージ右手に回り、最後にはセンターステージでそのミックとデュエット。
サーシャ、可愛かったなぁ。
そういえば今日のライブでは、というかおそらく今回の全米ツアーでは、このセンターステージでアコースティックセットは披露しませんでした。メンバーが肩を組んで通路を渡っていく心の準備だけはしてあったのですが、演奏はすべてメインステージでした。
そしてアンコール最後は「サティスファクション」。屋内だったのでストーンズ名物の大きな花火が打ちあがらず、紙吹雪が飛ぶこともなく、お祭りというよりもやはり追悼ムードがエンディングを占めていました。
なんか淡々と書いちゃいましたが、実のところめっちゃめちゃ楽しみました!
これまで15回前後観たストーンズのライブの中でも1-2位を争う内容! 敢えて言うとブラウン・シュガーがセットから外れたのがネガティブな意味で衝撃的でした。
それを除けば曲、音、ステージング、ステージセット、すべてにおいて最高としか言いようがなく、若いバンドと比較するのもおこがましいわー、と感じた次第です。
しかしさすがにこれがストーンズ最後のツアーで個人的には最後のライブになるかもしれないなぁ・・・。
(20:45-23:00)